宮部みゆき「ソロモンの偽証 第1部 事件」

1巻と2巻をまとめて買って、現在2巻の途中あたりを読んでいるところ。1巻あたり700ページもある大著なので最初はかなりの覚悟が必要だなと思ったものの、まったく中だるみもなくストーリーが展開されているため、1巻は事件編ということで全体のなかでの前フリにあたる部分であるものの、あっというまに読み終わってしまった。噂どおりの徹夜本ですね。

ソロモンの偽証 第I部 事件

ソロモンの偽証 第I部 事件

ストーリーは公式サイトにあるとおりで、中学校内のとある生徒の自殺問題に対して、クラスメイトたちが中学校内裁判を起こすというストーリーだが、それぞれの生徒が骨太なキャラクター設定で、中学生の心情もかなりリアルに描かれている。
公式サイトのインタビューでは、

この大胆な設定、何かに触発されたということは?
宮部 一九九〇年に神戸の高校で、遅刻しそうになって走って登校してきた女子生徒を、登校指導していた先生が門扉を閉めたことで挟んでしまい、その生徒が亡くなるという事件がありました。その後、この事件をどう受け止めるかというテーマで、校内で模擬裁判をやった学校があった。それがすごく印象に残っていたんです。

とあり、参考とした事例はあるようですが、いかにしてこのテーマに蹴りをつけるのか、第2巻、第3巻の展開が本当に楽しみですね。中だるみせず、このままの勢いでつっぱしって欲しい。

しかし、これだけの大著にもかかわらず話の展開にもほとんど違和感なく読み進められる小説というのもそうはないので、やはり宮部みゆきの凄さを改めて実感。実は宮部本は中学生の頃に「レベル7」や「火車」を読んだ記憶があるものの、それ以降読んでいなかったので。個人的には、同じ小学生〜中学生の頃にはまっていた宗田理の「ぼくらシリーズ」を彷彿とさせる学生達の奮闘劇に胸が熱くなりました。

城田真琴「ビッグデータの衝撃」

先日下記のニュースが話題になっていた。
ヤフー、メール連動広告 事前同意で問題回避と判断 19日から」(日本経済新聞

ヤフーはウェブメールサービス「ヤフー!メール」で、送受信したメールの文面に連動した新しい広告配信を19日から始める。同手法は総務省から、電気通信事業法で禁じる通信の秘密の侵害にあたる可能性を指摘されていた。ヤフーは利用者に広告表示の同意を事前にとる仕組みが整ったとして導入を決めた。
 新手法「インタレストマッチ」では題名と本文を機械的に解析し、内容に関連が高い広告が表示されやすくなる。例えば、旅行に関する内容をやりとりしている人には旅行関連の広告が表示される。利用者に同意を事前に求めることや広告主側に個人情報がわたらない体制を整えた。ヤフーは「法的問題はないことを総務省側と確認した」としている。
 ヤフーによるとヤフー!メール利用者(約1800万人)のうち「8月末現在で26万人が新広告配信を拒否する設定をしている」という。一方、米グーグルは日本で「Gメール」で同様の広告配信に乗り出している。

Gmailでは既に実施されているのに、日本のヤフーは通信の秘密にあたるからできないというのは不公平だということで、ヤフーも乗り出したのだろうが、第一印象としてはやはり抵抗感が与えてしまうだろう。ただ、8月末時点で26万人が拒否設定をしているとのことだが、まだ全利用者の1%程度なので、多くの人は同意しているのだろうか。

このようなレコメンドシステムの導入にあたり、個人的に関心があるのはやはり個人情報の取扱いに際し、現行の法制度の中どのように折り合いをつけるのかという点だ。先日下記の書籍を読み、ビッグデータの仕組みや技術、活用事例などを改めて読んで考えるきっかけとなった。

ビッグデータの衝撃――巨大なデータが戦略を決める

ビッグデータの衝撃――巨大なデータが戦略を決める

本書でも、その点はおそらく同様のビッグデータの体系的な説明書と比較しても、かなりのボリューム割いて整理されているように思う。
第6章「ビッグデータ時代のプライバシー」の中で、米国、EU、そして日本の検討動向がかなり詳しく整理されている。まぁ、この本を手に取る人は制度面の話よりも技術面、活用例などに関心がある人が多いのだろうが、是非この章もしっかり読んだ上で、どのように活用していくのか検討していただきたいところ。

日本ではやはりカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の動向が気になりますね。

children of bodom "Holiday at Lake Bodom"

高校生時代(2000年頃)の通学時にエンドレスに聞いていたチルボドのベストアルバムが6月に出ていることに今更気づいたので、itune経由で購入。

ホリデイ・アット・レイク・ボドム~ベスト・オブ・チルドレン・オブ・ボドム(スーパー・デラックス・エディション)(初回限定盤)(DVD付)(ギターフィギュア付)

ホリデイ・アット・レイク・ボドム~ベスト・オブ・チルドレン・オブ・ボドム(スーパー・デラックス・エディション)(初回限定盤)(DVD付)(ギターフィギュア付)

  • アーティスト: チルドレン・オブ・ボドム
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルインターナショナル
  • 発売日: 2012/06/13
  • メディア: CD
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2003年に1回ライブ行ってから徐々に離れてしまったが、ふと今何枚目のアルバムがでているのか気になって調べたら、ベスト盤がでていたようだ。まだ活動しているようでなにより。おそらくNeedled 24/7以降の曲はほとんど聞いていないけれども、それまでの曲は神曲ばかりで思わず高校時代の青臭い時代を思い出してしまった。でも、やはり今聞いても首振りたくなっちゃいますけど。

個人的にはヤンネのキーボードが好きで、個人活動しているWarmenも聞いていたなぁ。下記のアルバムも買って聞きこんでた。
Beyond Abilities

Beyond Abilities

今思うとやはり若いなと思うが、高校生の頃はチルボド聞いている自分、かっこいい〜と思ってたことをふと思い出した。。。

沢木耕太郎「凍」

最近登山系の本(自分が登るためのノウハウ本というよりは、登山家の自著伝であったり、登山を題材にした小説)を何冊か集中的に読み漁っている。その中で以下の本を読み終わった。

凍 (新潮文庫)

凍 (新潮文庫)

なぜ本書かとというと、
Sports Graphic Number Do 大人の山登り。 (Number PLUS)

Sports Graphic Number Do 大人の山登り。 (Number PLUS)

上記のNumberの雑誌を読んでいて、山野井氏のインタビュー記事に興味を持ったから。
この記事はNumberのWEB上でも掲載されていて読むことができる。
Number「日本一のアルパインクライマー 山野井泰史

アルパインスタイル、ソロによるヒマラヤの高峰登山で世界に名を馳せたクライマー山野井泰史沢木耕太郎の『凍』に描かれたギャチュン・カンでの壮絶な生還劇から10年。凍傷で手足の指10本を失ってもなお、山と岩壁への情熱は変わらず燃え続けている。その原動力となるものは何なのだろうか?

この記事で本書が取り上げられており、特に著者が私の好きな沢木氏ということもありさっそく読んでみたが、本当に過酷な冒険で生死をかけた登山であり、手足の指10本を失うだけですんだのが本当に奇跡のようだ。そして、それをまさに本人が書いたかのように書き上げた沢木氏の技量も凄いと改めて思った。
山野井氏の山や岩壁への原動力となるものは何かという点については、本書では以下の表現が心に残った。

 ただ、頂を前にした自分には常に焦っているところがある、ということが山野井にはわかっていた。決して功名心からではなく、そこに確かな山があるとき、その山を登りたいという思いが自分を焦らせてしまうようなのだ。
 それは頂上に登った瞬間の達成感を欲しているからだろうか。いや、そうではない、と山野井は思う。頂上に登った瞬間ではなく、頂上直下を登っている自分を想像するとたまらなくなるのだ。間近に頂上が見えている。そこにはまだ到達していない。しかし、もうしばらくすれば辿り着くだろう。そうした中で、音を立てて吹きつけてくる強い風の中を、一歩一歩登り続けている時の昂揚感は何にも替えがたいのだ。(p.196)

達成感ではなく、昂揚感。
自分は果たしてどんなときに昂揚感を感じるだろうか、などと色々と考えてしまった。

稲葉清毅「ふしぎな社会 おかしな行政」

総務省官僚、群馬大学教授、副学長を歴任された稲葉氏による著書。

ふしぎな社会 おかしな行政

ふしぎな社会 おかしな行政

本書の内容は、月刊誌で連載していたコラムをベースとしているようで、そのコラムは稲葉氏のHP上に公開されていた。ただし、内容はHPのものからは大幅に変わっているようだ。
内容としては、身近なテーマ(教育、食、環境など)をもとに、筆者としての意見を述べられており、個人的にはそれほど新たな知見は得られなかったが、稲葉氏の恩給局長時代の恩給制度の話(p.41〜44)は初めて聞く話でもあり、面白かった。

小熊英二「社会を変えるには」

新書なのに約500ページもあるという本なので、読むのにも非常に時間がかかった。といっても、すべてを精読したわけではなく、個人的に関心のあった社会運動論について書かれている第1章〜第3章と第7章を中心に読んだ。

社会を変えるには (講談社現代新書)

社会を変えるには (講談社現代新書)

社会を変えることとはどういうことは、それはどのようにして実現することができるのかということをこれまでの歴史を踏まえて書かれており、この分野に詳しくなかったので、これまでの様々な研究の蓄積を知ることができたのは勉強になった。
結論からいえば、社会を変えるとは、

みんなが共通して抱いている、「自分はないがしろにされている」という感覚を足場に、動きをおこす。そこから対話と参加をうながし、社会構造を変え、「われわれ」を作る動きにつなげていくことです。(p.439-440)

個人的には、具体的な社会運動のノウハウについて説明しているところの内容をもう少し深く知りたいと感じた。
「イノベーター理論(p.453)」や「フレーミング(p.454)」などの運動理論はビジネスの領域においても多々活用しようとすることがあるため、特に考えさせられた。理論の使い方やそのコンセプトについても簡潔にではあるが説明がされており、面白かった。
なかなか自分で行動を起こして、社会運動に参画するというのは勇気や体力がいることだが、やはり自分や周りの家族、あるいは会社といった周りの環境を守っていくために、自分が何をしなければいけないのか、ということは自分で考えていくしかないということだろう。

動くこと、活動すること、他人とともに「社会を作る」ことは楽しいことです。すてきな社会や、すてきな家族や、すてきな政治は、待っていても、とりかえても、現れません。自分で作るしかないのです。
めんどうだ、理想論だ、信じられない、怖い、という人もいるでしょう。そう思う人は、いまのままでやっていける、このままで耐えられると思っている人なのでしょうから、これからもずっとそうして過ごしてください。いつまで続けられるかは、わかりません。あとはあなたが決めることです。(p.502)

村上春樹「夢をみるために毎朝僕は目覚めるのです」

2010年に出版された同書の文庫版。2010年に出た際は読んでいなかったが、文庫で出ていたのを本屋で見つけたので買ってきた。

1997年から2011年までのインタビューということで、その時期に出版された小説の話なども含め、色々と個別の作品の意図にまで踏み込んで話されているところもあり、読み応えがある。
個人的には村上作品そのものというよりも、村上春樹のライフスタイルに関心があるのでその点に着目して読んだ。やはり、いかにして小説を書き続けるための集中力を高めるための環境作りをしているのかが特徴的で面白い。

ーどういう一日の日程なんですか?
村上 長編小説を書く時期に入っていれば、毎朝4時に起きて、5時間か6時間執筆します。午後には10キロ走るか、1500メートル泳ぐか、あるいはその両方をします。それから本を読んだり、音楽を聴いたり。だいたい9時頃には寝てしまいます。来る日も来る日もその日課をだいたいぴたりと守ります。休日はありません。そういう機械的な反復そのものがとても大事なんです。精神を麻痺させて、意識を深いところに運んでいくわけです。しかしそんなふうに6ヶ月〜1年の間、休みもなく反復を続けていくというのは、精神的にも肉体的にも強靭でなくてはできないことです。そういう意味においては、長い小説を書くのはサヴァイヴァルの訓練のようなものです。そこでは芸術的感受性と同じくらい、身体の強靭さが必要とされます。(p.224)

そして、なぜその身体の強靭さが必要なのかについての更なる説明が本書のタイトルにも関連してくるところ。

フィクションを書くのは、夢を見るのと同じです。夢をみるときに体験することが、そこで同じように行われます。あなたは意図してストーリー・ラインを改変することはできません。ただそこにあるものを、体験していくしかありません。我々フィクション・ライターはそれを、目覚めているときにやるわけです。夢を見たいと思っても、我々には眠る必要はありません。我々は意図的に、好きなだけ長く夢を見続けることができます。書くことに意識が集中できれば、いつまでも夢を見続けることができます。今日の夢の続きを明日、明後日と継続して見ることもできる。これは素晴らしい体験ではあるけれど、そこには危険性もあります。夢をみる時間が長くなれば、そのぶん我々はますます深いところへ、ますます暗いところへと降りていくことになるからです。その危険を回避するには、訓練が必要になってきます。あなたは肉体的にも精神的にも、強靭でなくてはなりません。それが僕のやっている作業です。(p.360-361)

このあたりのストイックさを継続して持ち続けて実践することが、一流の仕事を生み出すための秘訣なのだろう。
なお、このあたりの考え方は以下の方でより実践的な形で書かれており、改めて読み返したくなった。

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)