村上春樹「夢をみるために毎朝僕は目覚めるのです」

2010年に出版された同書の文庫版。2010年に出た際は読んでいなかったが、文庫で出ていたのを本屋で見つけたので買ってきた。

1997年から2011年までのインタビューということで、その時期に出版された小説の話なども含め、色々と個別の作品の意図にまで踏み込んで話されているところもあり、読み応えがある。
個人的には村上作品そのものというよりも、村上春樹のライフスタイルに関心があるのでその点に着目して読んだ。やはり、いかにして小説を書き続けるための集中力を高めるための環境作りをしているのかが特徴的で面白い。

ーどういう一日の日程なんですか?
村上 長編小説を書く時期に入っていれば、毎朝4時に起きて、5時間か6時間執筆します。午後には10キロ走るか、1500メートル泳ぐか、あるいはその両方をします。それから本を読んだり、音楽を聴いたり。だいたい9時頃には寝てしまいます。来る日も来る日もその日課をだいたいぴたりと守ります。休日はありません。そういう機械的な反復そのものがとても大事なんです。精神を麻痺させて、意識を深いところに運んでいくわけです。しかしそんなふうに6ヶ月〜1年の間、休みもなく反復を続けていくというのは、精神的にも肉体的にも強靭でなくてはできないことです。そういう意味においては、長い小説を書くのはサヴァイヴァルの訓練のようなものです。そこでは芸術的感受性と同じくらい、身体の強靭さが必要とされます。(p.224)

そして、なぜその身体の強靭さが必要なのかについての更なる説明が本書のタイトルにも関連してくるところ。

フィクションを書くのは、夢を見るのと同じです。夢をみるときに体験することが、そこで同じように行われます。あなたは意図してストーリー・ラインを改変することはできません。ただそこにあるものを、体験していくしかありません。我々フィクション・ライターはそれを、目覚めているときにやるわけです。夢を見たいと思っても、我々には眠る必要はありません。我々は意図的に、好きなだけ長く夢を見続けることができます。書くことに意識が集中できれば、いつまでも夢を見続けることができます。今日の夢の続きを明日、明後日と継続して見ることもできる。これは素晴らしい体験ではあるけれど、そこには危険性もあります。夢をみる時間が長くなれば、そのぶん我々はますます深いところへ、ますます暗いところへと降りていくことになるからです。その危険を回避するには、訓練が必要になってきます。あなたは肉体的にも精神的にも、強靭でなくてはなりません。それが僕のやっている作業です。(p.360-361)

このあたりのストイックさを継続して持ち続けて実践することが、一流の仕事を生み出すための秘訣なのだろう。
なお、このあたりの考え方は以下の方でより実践的な形で書かれており、改めて読み返したくなった。

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)