岡部伸「消えたヤルタ密約緊急電」

消えたヤルタ密約緊急電―情報士官・小野寺信の孤独な戦い (新潮選書)

消えたヤルタ密約緊急電―情報士官・小野寺信の孤独な戦い (新潮選書)

これはインテリジェンス本が好きな人にとっては徹夜本になる本。500ページ近くあり最初は躊躇するが、読み始めるとこんな歴史があったのかという驚きの連続で、第二次世界大戦をめぐる各国首脳の思惑とインテリジェンスの高度なやりとりに、本当にこれが現実にあったのかと思わされる。
それにしてもここまで調べた筆者の執念?も凄いもの。この筆者の執念は、ジャンルは違えど下記の本の著者と同じ執念を感じますね。
木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

おそらく本書の中でも筆者のエピソードとして記載されているが、新聞記者として上司にスクープ情報を信用してもらえず、大スクープを逃したという悔しい思いがあったからなのだろう。しかもこちらは、日本の運命を決める大スクープ情報だったのだから、誰もがなぜこのような情報を握りつぶしてしまったんだ、、という思いである。
そして、やはりこのような情報を入手できたのは、小野寺情報士官の人柄とコミュニケーション力が大きいようだ。

小野寺は、人種、国境を超えて、さまざまな国の人たちと協力して貴重な情報活動に成功することになるのだが、「回想録」で、「情報活動で最も重要な要素の一つは、誠実な人間関係で結ばれた仲間と助力者を得ること。その点で、まことに幸運だった」と振り返り、「年齢、国境、人種を超えて信念で固く結ばれた人間関係は、この上もなく尊いものと思う」と記している。(p.213)

なぜ世界最高水準の機密情報が握りつぶされてしまったのかという話も非常に面白いが、なぜ、そしてどのようにしてこのような機密情報を得ることができたのかという観点で小野寺情報士官の人生ストーリーを読み進めると、別の観点で考えさせられるものがあった。
なお、この手の話であれば当然なのかもしれないが、解説は佐藤優氏が執筆されている。

(参考)新聞社の書評