ガバナンスについて

いつも楽しく勝手に拝読させていただいているlanguid-graduatestudentさんのブログ「無気力東大院生の不労生活」にて木村琢麿『ガバナンスの法理論』についての書評が掲載されていまして、私もこれを先日図書館で借りて読んでみたのですが、私自身行政法はほとんど素人(大橋洋一先生の「行政法」と宇賀克也先生の「行政法概説」を斜め読みした程度・・・)なので内容について正直理解できていないところが多いのですが、languid-graduatestudentさんがご指摘されていた、

 題名に「ガバナンス」という語を用い、本文中でも「ガバナンス」が盛んに登場しますが、この本の冒頭でなされる「ガバナンス」の用語の定義が「甘い」です。

 「ガバナンス」については、多くの研究の蓄積があり、実際にこの用語が指す概念は極めて多様です。そして、そのような多様な概念を手際良くまとめた研究もありますが、その研究が何故か参照されていません。「ガバナンス」という用語を使用する以上、必ずや参照にすべきと言って良い文献が複数ありますが、それが参照されていないと私は考えます。例えば、Rhodesあたりは、最低限、注で触れるべきだと思いますが、、、、

は確かに自分も思いました。
私自身研究論文の題名に「ガバナンス」とつけてしまったこともあり、このキーワードには敏感なので(笑)

行政学の分野でのガバナンスについては、私自身の関心も含めて書くと、こういうふうに整理できるでしょうか。あくまでメモ程度のまとめですが。。。

  • 今日の「ガバナンス」ブームの背景には政府に対する信頼性の低下、国家の衰退、国家の機能不全などがある。統治機構への統治能力低下を補い、補完する概念として「ガバナンス」という概念が提示された。
    • 多様な論者からのガバナンス論の提示。(Hirst(2000), Rhodes(1997),(2000), Benz&Papadopoulos(2006))
    • 論者ごとにガバナンスへの照射が異なっており、ある論者は社会における経済的側面に目を向け、他の論者は国際社会における制度や体制に目を向ける、etc…。
  • 政治学行政学でのガバナンス論(パブリックガバナンス論)は、国家と社会の相互浸透、公と私の境界線のあいまい化、公的領域のアクターの多元化と相互依存関係を前提としつつ、多元的状況下における適切な統治、マネジメントを探求することと一般的にまとめられるが、そのアプローチ方法にはいくつかの方法がある。
  • ガバナンス論のアプローチには「国家中心アプローチ」と「社会中心アプローチ」に大きく分けることができる。前者は国家や政府の役割に分析の照準を定める議論であり、後者はむしろ「国家の空洞化」を前提として、それに代わる新たなガバナンス形態を探るものである(Pierre 2000)。
  • 国家中心アプローチの特徴は、国家が経済や社会をいかに「舵取り」をするのか、あるいはそれからどのような結果が生まれるのかに焦点が向けられる。したがって、国家が舵取りをするための制度や能力の分析が基本的な研究課題。
  • 国家中心アプローチにはさらに二つの下位類型がある。
    • 国家や政府のあり方に焦点を向けつつも、それらが果たす役割については消極的な見方をとる議論。
    • 国家の役割を積極的に捉え、NPMに限定されず広い視野にたって国家や政府の役割を議論する。分析焦点は政府内部、個々の組織よりも国家と社会の関係にあてられることが多い。代表的な論者にピーターズ(B. Guy Peters)、ダンレヴィー(P. Dunleavy)らがいる。
  • ピーターズらは、ガバナンスを「舵をとること、すなわち社会に対して一貫した指示を行うメカニズムを用いること」と定義。権限の分散化の必要性を否定しているわけではなく、社会の諸課題に対処するにあたり、国家や政府という中心的なアクターによる一定方向への指導や調整が必要であるということを示す。
    • 分析の焦点は、国家と社会の相互作用を通じたネットワークを分析の中心とする傾向にある「社会中心」のガバナンスではなく、あくまでも、「政策を形成し実施するための政府の能力」に向けられる。
    • これは国家や政府を消極的なアクターとして捉える視点と異なり、単に行政の効率化という視点から論じるのではなく、国家の役割を肯定的、積極的に評価し、国家と社会の統治構造のあり方などをより広い文脈から政府の役割に焦点をあて考察する点が特徴。
  • ピーターズは政府は統治の構造と過程において中心的な存在であり続けると主張しているが、この理由には次の3点があげられる。第一に、行政資源の不足状況はむしろその利用についての優先順位を決める役割を政府に負わせる。第二に、政府に対する不信がガバナンス論台頭の背景にあるが、ネットワーク論者が主張するような非定型的な統治様式はむしろ政策の一貫性を失わせ、ますます不信を高めてしまう。第三に、国際競争の激化は国内での協調的なプログラムを政府が策定する必要性を増加させ、対立の調停と解決は統治機能の重要部分であり、それは正統性をもつ政府によって主として担われる(Peters 2000)。
  • 文献一覧
    • Hirst, P. (2000), “Democracy and Governance,” in Jon Pierre (ed.), Debating Governance: Authority, Steering, and Democracy, Oxford University Press.
    • Rhodes, R. A. W. (1997), “Understanding Governace: Polity Network, Governace, Reflexivity and Accountability”, Buckingham.
    • ―――. (2006), “Governace and Public Administration,” in Pirre (ed.), Ibid.
    • Benz, A. and Papadopoulos, Y. (eds.) (2006), “Governace and Democracy: Comparing national, European and international experiences,” Routledge.
    • Pierre, J. (2000), “Introduction: Understanding Governance,” in Pierre (ed.), Ibid.,
    • Peters, B, G. (2000), "Globalization, Institutions and Governance." in Donald J. Savoie and B. Guy Peters (ed.), Governance in the Twenty-First Century:Revitalizing the Public Service. McGill-Queens University Press.

Debating Governance: Authority, Steering, and Democracy

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