日航機ニアミス

このような何人もの人が介在しているネットワークから生じた事故の場合、責任を誰が取るのかというのはいつも問題となるが、その思考方法はあんまり進歩していないようで。非常に難しい問題ですが、こういう問題に対する考え方を整備していかないとダメですね・・。
日航機ニアミス、管制官2人無罪・システム不備など示唆」(日経)

 2001年に静岡県焼津市上空で日航機同士が異常接近(ニアミス)した事故で、誤った指示で乗客57人を負傷させたとして、業務上過失傷害罪に問われた国土交通省東京航空交通管制部管制官、籾井康子(37)、蜂谷秀樹(31)両被告の判決公判が20日東京地裁であった。安井久治裁判長は「事故の予見可能性はなく、指示ミスと事故との因果関係もなかった」として、いずれも無罪を言い渡した。

2管制官に無罪判決 日航ニアミス 東京地裁 『誤指示が原因』否定」(中日)

958便の左翼端と907便の機首との距離がわずか約十メートル(検察側の論告)という異常なニアミスに結びついた原因は、管制官と衝突防止装置(TCAS)から異なった指示が出た場合、機長はどちらに従うべきか明確な規定がなかったことだ。管制官から誤って下降指示を受けた907便の機長は、エンジン性能に関する十分な情報を航空会社から知らされておらず、失速を懸念してTCASの指示に従わなかった。このため判決は、管制官の指示だけに従っていれば、ニアミスは起きなかったという論理構成で無罪とした。
 しかし、検察側が指摘したように「衝突が回避できたのは奇跡」と言ってもいい状況で、もともと便名を言い間違えなければ、ニアミスに結びつかなかったはずだ。
 事故は、人的ミスに衝突回避ルールの不徹底などが複合的に重なって起きた。この事故をきっかけに、現在はTCAS優先のルールに統一されている。しかし、管制業務に真剣な反省と対応が求められたのは当然であり衝突回避のルール作りが遅れた国にも責任の一端があるのは明らかだ。関係者には空の安全確保への不断の努力が求められる。

ニアミス事故の判決要旨 東京地裁」(中国)

(関連)
■2006/03/21 (火) 09:19:20 日航機ニアミス、管制官2人に無罪」(泥酔論説委員の日経の読み方)

そもそも、航空機のように複雑なシステムに支えられている交通機関の事故は、一個人の過失しか問えない刑事裁判自体が馴染まないわけで、以前から疑問に感じていたところです。
それを地検は、無理繰り管制官や機長個人に罪を被せるようなシナリオを作ったものですから、裁判で負けるような羽目に陥ったということですね。
むしろ事故の原因は一体何であったのか、これを詳らかにすることこそ次の事故を防ぐ第一歩であるにも関わらず、しばしばマスコミは誰が悪くて誰が悪くないという話に矮小化してしまい、かえって事件を風化させてしまうのです。

弁護士 落合洋司 (東京弁護士会) の 「日々是好日」

ただ、素朴な疑問として感じるのは、管制官に、重大な(軽微とは言えないでしょう)ミスがあり、その後、上記の衝突防止装置(TCAS)とパイロットの判断が、絡み合った糸のような状態になって大混乱に陥り、危うく衝突、という事態が生じたことについて、「TCASが指示を出さなければ、(中略)接触・衝突する危険性は生じなかった。」などと済ませてしまってよいのか、ということでしょう。衝突防止装置というものが備え付けられた飛行機が飛んでいて、誤った管制官の指示と装置の指示がバッティングするという事態が生じてしまった場合に、その事態を作り出したとも言える管制官に過失が認められない、というのは、非常にわかりにくいですね。