イレッサを巡る騒動はまだ終わらない

こんな記事を見つけた。イレッサ:副作用、死者607人に毎日新聞

肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名・イレッサ)について、間質性肺炎や急性肺障害の副作用があったとして国に報告された患者数は1555人、うち死者数は607人に上っていることが、28日の参院厚生労働委員会で明らかになった。副作用報告数が公表されたのは、同省が1月に開いた検討会以来で、死者数は19人増えた。
 厚労省医薬食品局の阿曽沼慎司局長が、小池晃委員(共産)に対する答弁で「4月22日までに報告された粗い集計」として明らかにした。

ゲフィチニブ(以下イレッサ)は、従来の細胞障害性抗悪性腫瘍剤より抗腫瘍活性が高く、かつ毒性の軽い優れた効果を期待できる一方で、急性肺障害・間質性肺炎(ILD)を引き起こす可能性がある、という問題を抱えている。現在日本は世界でただ1国薬剤として認証しているが、それが本当に良いのか悪いのかは未だ論争中のところである。
僕自身全然医薬に関しては素人なので医学的効果が実際どのていどあるのかに関しては分からないが、まずその薬品を使用するかどうかを考える際に考慮しなければならないこととして、判断の基準を何におくか、ということがあるのではなかろうか。
この点に関しては、浜六郎氏の「薬害はなぜなくならないか」の中で使用されている、「効果判定の目標」(p.210)という言葉が参考になる。

薬害はなぜなくならないか―薬の安全のために
浜 六郎

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『がんが治る』あるいは『寿命が延長する』という真の目標と、癌が一時的に小さくなるという仮の目標がとりちがわれやすい。」(p.211)
とあるように、一体何を目的としてイレッサを使用するのかの基準が重要となる。それを考慮して初めてイレッサのリスクと便益の判断基準を設けることができるのである。
調べてみると、イレッサの審査プロセスとして、2つの臨床試験があるようだ。一つはIDEALと称する2つの国際協同無作為化第Ⅱ相試験で、もうひとつはINTACTと称する2つの大規模第Ⅲ相比較試験である。詳しい試験内容は分からないが、この実験結果として、
「東洋人を対象としたサブグループ解析において、ゲフィチニブの投与が生存期間の延長に寄与することが示唆された。」(厚生労働省ゲフィチニブ検討会
という結果が出て、東洋人には効果が認められたという人種間による効果の差異を強調したことである。
しかし、その際の審査基準の特徴として興味深いことが、上記でも引用した「薬害はなぜなくならないか」に書かれている。
抗癌剤が国から許可される際にも、「腫瘍が一時的に縮小すること」が確かめられていればそれですむ。ふつう腫瘍がもとの半分以下になると、抗癌剤に「反応した」としている。日本ではこれを「奏効した」といっているためか、これが確かめられると抗癌剤の効果が証明されたかのように錯覚するヒトが多いが、これはあくまでも、とりあえずの反応を見ただけなのである。」(p.212)
ここでも書かれているように、抗癌剤の審査基準としては「癌が小さくなる」かどうかである。たとえ東洋人には癌が小さくなったとしても、はたしてそれで薬害使用を認めていいのか、という問題は解決された訳ではない。
 それではこの薬物使用を許可した厚生労働省の判断はどうだったであろうか。国がこのような政策決定時に直面する時、薬学知識の不確実性が問題なのか、それともそれを扱うヒトや体制に問題があるのか、という問いに直面してしまう。これは薬害問題は「薬害という問題は知識の問題なのか体制の問題なのか」というところに最終的には行き着くのである。このような問題を抱えている場合、安易にリスク−便益分析を行い便益のほうが大きければ採用する、という安易な分析は危険で、それは知識問題の根本を解決することはできないからだ。
 厚生労働省は今後も実験を重ね、その有効性を確かめ、また使用する際の注意を促しているが、どれだけ注意を促しても、実際にそれを使うことを決断するのは現場の医師と患者であり、今あるその苦痛を和らげようと将来に抱えるかもしれないリスクを甘く見積ってしまう。その甘く見積ってしまうリスクをどの程度医師−患者−行政が把握し、それを行政は冷静に分析し、政策として反映することができるのか。現在の厚生労働省の姿勢では、「過去の問題に比べてその恩恵を受けている人が多いので、慎重に使用を続けていく」、という立場であるが、このような立場では本当にその効果があったとしても本質的な知識問題の解決には至らないのではないだろうか。このような政策姿勢である限り、このような薬害問題は常に私たちの前からなくなることはないだろう。

イレッサ薬害被害者の会