幸福の政治経済学

幸福の政治経済学―人々の幸せを促進するものは何か
ブルーノ S.フライ アロイス・スタッツァー 沢崎 冬日 佐和 隆光

ダイヤモンド社 2005-01
売り上げランキング : 19,275

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
<目次>
【第1部 幸福をどうとらえるか】
第1章 幸福とは何か
第2章 経済学における幸福のとらえ方
第3章 幸福に影響を与えるさまざまな要因
【第2部 経済的条件が幸福に与える影響】
第4章 所得と幸福の関係
第5章 雇用と幸福の関係
第6章 インフレと幸福の関係
【第3部 政治的条件が幸福に与える影響】
第7章 現行の政治経済プロセスと幸福の関係
第8章 政治体制と幸福の関係
第9章 政治への参加と幸福の関係
【第4部 結論】
第10章 幸福の政治経済学
人はどのようなときに最も幸福と感じるのだろうか。その問いに経済学及び政治学双方の観点から考察している。これまでの【効用】概念の問題点から始まり、幸福を生み出す経済学的条件を最初に分析し、後半では主に政治体制から分析している。

本書での筆者の結論は、政治制度が幸福の増減に大きな影響を与えている、というものであり、特に筆者らの母国であるスイスを計量経済学的に分析することで、その論拠付けを行なっている。
たとえば、第9章において、筆者らは「プロセスの効用」が幸福には重要だと述べている。「プロセスの効用」とは幸福にいたる過程や手続き自体に幸福を感じると言うことである(主観的幸福)。たとえば、筆者らは政治参加が幸福をもたらす、という論の仮説として以下の2つを提示している

①政治プロセスに参加する「権利」は、国民の主観的幸福を支えている。同じ地域に住む外国人はそうしたプロセスから排除されているから、国民に比べて幸福度は低くなる。
②参加する「権利」に比べ、「実際の」政治参加は、プロセスの効用との関連性は低い。

そして筆者らの分析により

記述統計に基づく分析によれば、参加する「権利」の強化によってプロセスの効用は上昇するが、実際の政治参加が高まっても効用は上昇しないという暫定的な証拠が得られた。

とし、政治における意思決定への参加が、プロセスの効用の潜在的な源泉となっていると述べる。

本書は結論として、

幸福は、経済・社会がどのように組織されているかに決定的に左右されるということだ。政治プロセスにおいて個人の選好がより強く反映される社会では、人々の幸福は増大する。したがって、国民投票や分権化された州制度を通じて、公的な意思決定に直接参加する可能性が増せば、幸福の増大に大きく寄与する。
この効果は、公共政策が市民の願望に、より密接に関連付けられるという理由だけでなく、参加する権利そのもの、つまり政治的プロセスにおいて積極的役割を果たす可能性から得られる効用によるものである。

としている。
経済政策の観点からこの幸福について言及している本は多々あるが、政治・経済など多側面から幸福について分析している本は、ほとんど読んだことがなかったので、非常に面白かった。計量経済学的分析がところどころ難しく(自分の勉強不足ですが・・)、理解するのに時間がかかる部分は多々あったが、多くの参考文献や各章の最後にまとめを載せてくれるなど、読者に配慮した構成になっている。

なかなかの良書であった。