今年の5冊

毎年恒例の記事となっているので、今年はブログはほとんど更新できなかったけれども、これだけは書き残しておこうかと。
また、内容も10冊から5冊へと縮小して選出。一応ジャンルとして、政治・行政、経済、サイエンス、人文系、その他からそれぞれ1冊という形で選んでみました。

  • 政治・行政

ガバナンスの探求―蝋山政道を読む

ガバナンスの探求―蝋山政道を読む

本書はおそらく政治・行政専攻以外のひとはまったく関心のない本かもしれないけれども、蝋山政道という日本の行政学の先駆者がいかにして行政学をひとつの領域として体系づけていったのかが簡潔かつ叙述的にまとめられていて、政治・行政学を専攻する学部生とかにはぜひとも一度は目を通してほしい一冊。東大助手になった1920年からの研究の中で、どのように行政学政治学を位置づけ、体系化させていこうと考えていたのか、そしてその当時の日本の政治状況をどのように捉えていたのか、本書では蝋山が書いた論文を取り上げながら、そのエッセンスを掘り起こし、蝋山の問題意識を浮かび上がらせている。ネット上には本書についての書評とかはまったくみないのだが、政治・行政関係者以外の人にとっても蝋山の生き方を知るという点でも参考になるかと思います。個人的には岩波新書あたりで一般向け用にして出版していただきたいくらいです。
丸山眞男―リベラリストの肖像 (岩波新書)

丸山眞男―リベラリストの肖像 (岩波新書)

イメージとしてはこの本の「蝋山政道」版でしょうか。

  • 経済

ベーシック・インカム入門 (光文社新書)

ベーシック・インカム入門 (光文社新書)

経済的なトピックとしてはひとつは「ベーシック・インカム」という概念が広まった一年だったように思います。そしてそれについて勉強しようとした人の多くはベーシック・インカムの入門書として本書をまず手に取るのではないでしょうか(私自身そうだったのですが・・・)。本書は社会保障におけるベーシックインカムの考え方について、技術的な経済学的位置づけではなく、労働そのものについての考え方であるとか、その背景にある社会思想をもとに説明していて、経済学だけでなく社会思想・政治哲学の考え方も盛り込まれており、そういった観点に興味がある人のほうがむしろ楽しめるのかと思います。本書出版以降、本屋で「ベーシック・インカム」に関する本を見かける機会が増えた気がしますし、ホリエモンや東さんなどが問題提起していることもあり、2010年は本格的に日本でも議論が活性化されてくるのではないでしょうか。そういった意味で本書だけを読んでベーシック・インカムについてどうこういうことはできませんが、そのとっかかりとして本書を読んでおいて損はないはずです。
ちなみに去年の「今年の10冊」にとりあげた
福祉政治―日本の生活保障とデモクラシー (有斐閣Insight)

福祉政治―日本の生活保障とデモクラシー (有斐閣Insight)

の著者である宮本氏も先日出版された本の中でベーシック・インカムについて取り上げているので、こちらについてもあわせて読むと理解が深まるかと思います。
生活保障 排除しない社会へ (岩波新書)

生活保障 排除しない社会へ (岩波新書)

  • サイエンス

本書はサイエンス分野というよりもノンフィクション本としたほうがよいかと思いますが、とりあえずテーマからサイエンスとして位置づけました。

宇宙創成(上) (新潮文庫)

宇宙創成(上) (新潮文庫)

シンの著書は毎回文庫化された後に読んでいますが、今回のもおもしろくないわけがなく、理系の素養がないながらも楽しく読むことができました。科学者の苦悩や葛藤を生生しく表現するとともに、その葛藤の内容についても非常にわかりやすく説明されているので、読者も引き込まれ、サイエンスの躍動感を味わうことができるのではないでしょうか。おもしろいサイエンスノンフィクションはないかと人に聞かれたら、サイモン・シンの本を読めと答えておけばまず否定されることはないでしょうね。
そんなサイモン・シンの新著の日本語訳「代替医療のトリック」がいよいよ2010年1月に出版されるようです。これまでどおり文庫版まで果たしてまてるかどうか・・・。正直自信はありません。

  • 人文系

NHKブックス別巻 思想地図 vol.3 特集・アーキテクチャ

NHKブックス別巻 思想地図 vol.3 特集・アーキテクチャ

アーキテクチャ」としての考え方が本書に凝縮されており、これ1冊でお腹一杯になりました。書かれている論者も気鋭の若手論者がかかれており非常に勉強になるとともに、刺激を受けました。アーキテクチャとは、情報技術を用いた環境の設定を通じて、人々に一定の幅での自己決定を促す仕組みではありますが、その中でどのように人々の自発性を引き出す仕組みがつくれるのか。行動経済学の考え方なども含め、民主主義2.0につながっていく論点がちりばめられており、ベーシック・インカムとともにアーキテクチャは2009年の注目キーワードとしてはずせない概念の一つになったのではないでしょうか。

  • その他

ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ 世界を変えてみたくなる留学

ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ 世界を変えてみたくなる留学

財務省の若手官僚である池田さんがハーバードケネディスクールでの留学時の日々についてまとめた本。自分の印象としては、
僕のハーバードMBA留学記 金融資本主義を超えて (文春文庫)

僕のハーバードMBA留学記 金融資本主義を超えて (文春文庫)

MBAが公共政策大学院版になった本という印象をもった。私自身もMBAより公共政策大学院系に興味・関心がもともとあったため、本書で書かれている様々な体験談を読むことでワクワクするとともに、ここに集う世界の優秀な若者たちの問題関心であったり、モチベーションについて知ることができて、自分のモチベーションを高めたり、自分自身を改めて見直す際の「元気の源」的な本として活用させていただきました。やはり海外の厳しい環境の中でもまれるのは苦しいが、それを戦い抜くことができれば非常に大きな力となり将来の財産となることが岩瀬さんや池田さんの本を読んで改めて感じたことです。

[参考]