自転車を学問する

ロードバイクに乗り始めたからかと思いますが、自転車を巡る社会のアーキテクチャに非常に関心があるこの頃です。自転車のアーキテクチャといえば、ブログ界では松浦晋也氏が有名で、特に「1978年の道交法改正がもたらした、自転車と歩行者の危険な混同」が最近ではヒット記事でした。ママチャリの歩道走行がいかにして「当たり前」となったのか、が非常に簡潔に書かれていました。

多くの人たちが格安自転車を喜んで買う背景には、緊急避難のはずの「歩道走行可」が実態として定着してしまったということがある。狭い歩道を歩行者を避けつつ走る場合、そんなにスピードは出せない。だから格安自転車の柔なフレームも利かないブレーキもあまり大きな問題にはならない。消費者の意識には「安い」というメリットだけが大きく映るわけである。

ちなみにこの分野についてアカデミックに研究されていらっしゃるのが、武藤先生でしょう。武藤先生といえば下記の本を最近出されましたが、これを読むとよくまぁこれだけ道路について調べ上げられたなぁと思います。そして、この道路愛はなんと武藤先生がサイクリストだからこそだということが本書を読むとわかるわけです。

道路行政 (行政学叢書)

道路行政 (行政学叢書)

本書「あとがき」にて以下のような記述があります。

道路を旅すること自体が楽しみであることを発見した最初の人々は自転車利用者(サイクリスト)であった。自転車が今日のような形になったのは、18世紀の後半であるが、チェーンによって後輪を回転させるという効率的な駆動技術が発明され、路面からの衝撃を吸収するための空気圧を利用したゴムタイヤが開発され、装着された。こうして快適性を増した自転車が、田園地帯の中のまだと奏されていない道路を走っているという光景は、18世紀末から20世紀初頭にかけてのイギリスで見られるものであった。まだ自動車に道路が独占される前の時代である。やがてイギリスのサイクリスト達は、快適に走るために道路の改良運動に取り組み、道路改良協会を設立して、道路舗装の推進に取り組んだ。道路改良の一つの転換点としてサイクリストがかかわっていたのである。
自転車旅行が趣味であった私は、拙書『イギリス道路行政史』の作業中に、ウェッブ夫妻の著書にこのような記述を発見して大いに感動した。私が道路行政を研究テーマとして選択した理由のひとつがここにある。すなわち、自転車にとって道路の状態はすこぶる重大な問題であり、自転車に長く乗れば、必ず道路行政について思いをめぐらすことになる。そこから私の関心も道路行政の研究に移っていった。

また、早稲田塾GOOD PROFESSOR」の中でも、以下のようなことが書かれていました。

ところで、そもそも武藤先生が道路行政の研究を志すことになったきっかけは、高校生のころの自転車旅行だという。日本国内のあちこちを自転車でツーリングしたが、いちばん遠くまで行ったのは、なんと東京から佐渡島まで。この自転車旅行でつくづく思ったのが、日本の道路は自転車にとって実に走りにくいということだった。一度バスに轢かれる寸前になったこともあるという。  

「旅行が好きで、それも道路を走るのが好きだったものですから、修士課程のときに何をテーマに論文を書こうかと考えたときに、道路行政をやってみようと思ったのです」 先生の後輩には、山歩きが好きで森林行政を研究するようになった人がいる。ガソリンスタンドでアルバイトした経験をもとに、石油行政を研究している人もいるという。  

「そういう"趣味"のような世界を研究対象に選ぶと、人は自ずと勉強しますよね(笑)。学生にも、自分の好きなことを研究するのがいいと勧めています」

自転車で色々な道路を走っていると、車道の歩道の間をいかにして走るかを常に考えなければならず、それゆえ道を曲がるだけでその幅が変わることに非常に敏感に反応してしまうんですよね。そうすると当然「道路」がいかにして作られたのかという道路行政に目がいくはずで、自転車という観点から道路設計を考えるのが非常に面白くなるわけです。まさしく趣味を学問にした典型例ですね(笑)。
ちなみに上記の武藤先生の本の内容自体はあくまで高速道路・一般道路などの全体的な道路行政であって、自転車にフォーカスした記述はありません。おそらくそこまで踏み込めなかったのかと思いますが、個人的にはそこについて読みたかったなぁ。
しょうがないので、今自分で調べているところですが、なかなか奥が深い分野なので、これは片手間では難しいかもしれませんね。
「自転車を巡る制度設計の変遷と管理」とかいうタイトルでも付けて論文でも書いてみたいですが。

また、自転車を題材にしてほかの分野について熱く語っている人といえば疋田智氏も有名です。

疋田智のロードバイクで歴史旅

疋田智のロードバイクで歴史旅

ちょうど今この本を読んでいるのですが、「ロードバイク5%、日本史が95%」の内容にもかかわらずなぜか自動車に乗って日本を旅したくなる気分にさせられてしまう、非常に自転車に乗りたくさせる中毒的な本です。自転車に乗っていれば、当然走っている道路についても感心を持つ人や、その地域にある遺跡や寺、歴史スポットなどの歴史に関心がでてくる人など、「自転車と○○」という色々な分野に幅を広げられるので、これまたいろんなうんちくを蓄積することができるのではないかと思っているこの頃です。

この疋田氏が学習院生涯学習センターで「楽しむための自転車学 09年春ブームというだけにとどまらない自転車の真の効用と使い方」という講義を教えらるようです。
非常に面白そうな内容なので、時間の都合があえば是非受講したいなぁと思ったり。