精神の二つの型

実家に帰って書棚の中から「ケインズハイエク」をたまたま手にとって読み直す。本書の中で気になったフレーズが出てきたので該当箇所を引用してみます。

学問的思考にたずさわる人間には二つの精神の型がある、とハイエクは述べている(「精神の二つの型」)。一つは「記憶型」とでも呼ぶことのできるタイプで、普通はこちらが幅を利かせている。この型の人は多くの書物を読み漁り、細々した事実や用語を頭の倉庫にいっぱい詰め込んでいる。臨機応変に在庫品の中から必要な知識を取り出し、学の既成の地図に沿ってうまくそれらを配置する。流行に敏感で、学の全領域に通じていなければ気がすまない。この型の精神にとっては在庫の新鮮さとその総量が勝負の決め手となるのである。
「記憶型」の精神に対置されるのが「混乱せる頭脳」である。前者が書いたりしゃべったりしている言葉を見聞きしても、その言葉はどこか上滑りしているという感じを持つ。彼らはまるで言葉と事物が一対一に正確に対応しているかのようにしゃべっているが、何かを言い損ねているという感じがしてしようがない。ハイエクによれば、この精神型の人間は「言葉なき思考」に頼るために、そう感じるのである。目的地を目指そうにも言葉の地図を持たないから、一人でその道を開拓していかなければならない。偉大な仕事を成し遂げてきたのは、記憶型とは違ったこの型の人間だと彼は言っている。
ハイエク自身はどうかと言えば、ごく控えめに、自分はどうやら混乱せる頭脳のタイプに属するのではないかと告白している。言葉なき思考がまず先にあって、それを何とか言葉に変えようとするのが、彼のいう言語プロセスである。本を読んだり話を聞いたりして得るところがあるのは、それが自分自身の「考えの色合い」を変えてくれることによる。知識の在庫を補充するためでなく、自分の思考に変更を迫ること、他人の観念や概念を知るためでなく、自分の観念・概念の間の関係に修正を迫ること、それが読書の効用だとハイエクは言う。(p.43-44)

「考えの色合い」(colours of your concepts)という言葉はいいなぁ。自分も色合いを変えていくためにも、核となる概念をしっかり固めていこうと思います。

増補 ケインズとハイエク―“自由”の変容 (ちくま学芸文庫)

増補 ケインズとハイエク―“自由”の変容 (ちくま学芸文庫)